第572回土曜健康科学セミナーレポート
2月8日(土)13時半から健康ライフプラザ5階で、第572回健康創造都市KOBE土曜健康科学セミナーを開催いたしました。
今回のテーマは、「グローバル化時代の感染症」、講師は神戸市立医療センター中央市民病院 感染症科医長 土井 朝子先生です。
感染症にどのように対峙するかは、発生する時代、場所、状況により、取り得る最適解は異なります。抗生物質が細菌による感染症の患者を救ってきましたが、ペニシリンを発見したフレミングが、ノーベル賞受賞スピーチの中で「ペニシリンが商店で誰でも買うことができる時代が来るかもしれない。そのとき、無知な人が必要量以下の用量で使用して、体内の微生物に非致死量の薬剤を曝露させることで、薬剤耐性菌を生み出してしまう恐れがある」と言ったとおり、薬剤耐性菌の出現と抗菌薬の開発は繰り返されています。このまま何も対策を取らずに耐性率が現在のペースで増加した場合、薬剤耐性に起因する死亡者数は、2050年には世界で1000万人が想定され、がんによる死亡者数も超えるとした報告もあります。
2018年の日本から海外への旅行者は1900万人、2019年訪日外国人は3188万人で過去最高でした。日本に居住する外国人も増加しており、海外から持ち込まれる感染症では、一昨年に、麻疹排除国である日本で国外から持ち込まれた麻疹の感染が広がった例もあります。麻疹の場合、感染の防御は2回のワクチン接種以外にはありません。90%の人がワクチンを接種し免疫を獲得すれば、集団の中に感染患者が出ても流行を阻止することができます(集団免疫効果)。
コロナウイルスとは、人に感染を起こすものは6種類で、そのうち4種類は通常の感冒の原因(10~15%)、その他の2種類のSARSとMERSは重症化リスクが高いものです。昨年12月より感染が報告されている新型コロナウイルスは、この6種類とは別のもので、中国武漢市でみられた原因不明の肺炎の原因と同定されました。現状では、湖北省武漢以外では致死率は低く、潜伏期間は5.2日(95%が12.5日以内)で、おそらく潜在的な感染者は多いと考えられます。高齢者で持病を持っている人が重症化しやすいことが特徴です。
今、私たちにできる感染対策は、①こまめに手洗いをする(手指の衛生を保つ)②予防のマスクの有効性はないため(閉鎖空間ではあるかもしれませんが)、必要以上にマスクを装着しない(供給が不十分になり、必要な場所や必要なヒトで使えない)③急性の呼吸症状があるときはマスクを装着する④しっかりと寝る!十分な栄養、休養を取る―などです。
もう一つ、まだまだ気を付けていただきたい感染症にインフルエンザがあります。毎年4900万人が罹患し、96万人が入院し、79000人が死亡しており、日本では1000~2000万人が医療機関を受診しています。症状は、急性の発熱、乾性咳嗽(乾いた咳)、咽頭痛、鼻水、頭痛、筋肉痛/関節痛、倦怠感などで、通常は3~7日で自然に改善します。治療が推奨されるのは、65歳以上や2歳未満の人、妊婦の他、免疫不全や慢性呼吸器疾患、悪性腫瘍などの既往がある人です。
予防には、マスクの着用、咳エチケット、手洗いなどがあげられますが、大切なのはワクチン接種です。免疫効果の持続は6~8カ月でインフルエンザの発症を40~60%減らせます。肺炎などのインフルエンザ関連の合併症や入院を減らす効果もあります。
インフルエンザの流行前に、必ずインフルエンザワクチンを接種してください。
学童への集団接種で接種率が上がれば、集団免疫効果を発揮し、高齢者の死亡、家族内のインフルエンザの発症、社会全体のインフルエンザの発症/死亡を減らすことができるのですが…と現状の問題点もご指摘いただきました。
最後に、Take Home Massageとして、
・まともな情報源から情報を得ることが大事。
・時代は変わりました。感染症は海外から持ち込んで、持ち出す時代です。
・普段からできる感染症対策(手指衛生)をしっかりしましょう。
・ワクチンで予防できる病気はワクチン接種しましょう。
と話されました。
会場からの質問にも丁寧にお答えいただきました。
次回は、3月14日(土)13時半から開催いたします。テーマは、「「脳卒中」を知ることから始めましょう-彼を知り己を知れば百戦殆うからず-」、講師は神鋼記念病院 脳神経外科部長・脳卒中センター長 上野 泰氏です。